会社員からフリーランスで手取りはどう変わる——税金・国保・年金の実額シミュレーション

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独立を考えるたびに、「食えなかったら家族はどうする」で思考が止まってしまう。そんな夜を何度も過ごしてきた方が、このページを開いているのだと思います。辞める怖さと、このままでいる焦りの板挟みは、真剣に考えている人にしか起きません。その不安の正体は、数字にすると小さくなります。この記事では、会社員がフリーランスになると何がいくら増えるのかを一次情報の実額で整理し、最後に「撤退ラインの決め方」までお渡しします。

同じ「年収500万円」でも手取りが違う理由(給与所得控除と経費の構造)

まず押さえたいのは、「年収500万円の会社員」と「売上500万円のフリーランス」は、同じ数字でも中身がまったく違うということです。

会社員の場合、収入から「給与所得控除」という概算の控除が自動的に差し引かれ、そのうえ社会保険料(健康保険・厚生年金)は会社と本人の労使折半です。つまり、自分では何もしなくても、負担が軽くなる仕組みが最初から組み込まれています。

フリーランスの場合、収入は「売上」であり、そこから実際にかかった経費を差し引いた残りが所得になります。給与所得控除はありません。代わりに使えるのが経費と青色申告特別控除で、これは自分で帳簿をつけて初めて手に入る控除です。さらに社会保険は国民健康保険と国民年金に切り替わり、全額が自己負担になります。

要するに、会社員の手取りは「守られた構造」の上に、フリーランスの手取りは「自分で組む構造」の上に成り立っています。だからこそ、独立の判断は年収の額面ではなく、この構造の差を実額で見てから下す必要があります。

会社員が独立すると増える負担——国民健康保険・国民年金の実額

独立して確実に変わるのは、年金と健康保険です。

国民年金は、2026年度(令和8年度)の保険料が月額17,920円(2026年4月〜2027年3月)、年額にすると215,040円です(出典: 日本年金機構・厚生労働省)。会社員時代の厚生年金は労使折半でしたが、国民年金は全額自己負担になります。なお保険料は年度ごとに改定されるため、翌年度以降は金額が変わる前提で見てください。まとめて前払いする前納割引もあります。

国民健康保険は、前年の総所得金額等から基礎控除43万円(合計所得2,400万円以下の場合)を差し引いた額を算定基礎として、自治体ごとの料率で「所得割」と「均等割」(自治体によっては平等割も)を計算します(出典: マネーフォワード、レバテックフリーランス)。会社員の健康保険と違って全額自己負担で、扶養という概念がないため、扶養家族が多い方ほど負担の増え方が大きくなります。

金額の目安としては、所得ベースの試算例で年収400万円なら年額約35万円、500万円なら年額約46万7,000円という数字があります(出典: マネーフォワード)。ただし国保の料率は自治体で大きく異なるため、この金額はあくまで試算例です。

ケース別シミュレーション: 年収400万・500万・700万円の会社員が独立したら

ここからは計算例です。仮に、前述の試算例と同じ所得水準・自治体条件で独立した場合、国民年金と国民健康保険の年間負担は次のようになります。

所得水準(試算例) 国民健康保険(年) 国民年金(年・2026年度) 合計(年)
400万円 約35万円 215,040円 約56万5,000円(月あたり約4万7,000円)
500万円 約46万7,000円 215,040円 約68万2,000円(月あたり約5万7,000円)
700万円 試算例なし・自治体で確認 215,040円

700万円のケースは、手元に一次情報にもとづく国保の試算例がないため、金額を示していません。国保の所得割は所得に比例して増える構造なので負担はさらに大きくなりますが、正確な額はお住まいの自治体の料率でしか出せません。多くの自治体が公式サイトで保険料の試算方法やシミュレーションを公開しているので、そこで確認してください。

そして大事な注意をひとつ。この表は社会保険料だけの計算例で、所得税・住民税はここに上乗せされます。税額は経費・控除・家族構成の前提で大きく変わるため、この記事では出典のある保険料に絞っています。それでも「独立したら、まず年間56万〜68万円規模の保険料を自分で払う」という実額が見えるだけで、不安はかなり具体的な課題に変わるはずです。

「会社員の手取りと同等」になる売上ラインはいくらか

ここまでの構造を式にすると、考え方はシンプルです。

必要な売上 ≒ いまの額面年収 + 全額自己負担になる社会保険料 + 事業にかかる経費 + 税の構造差の調整分

仮に年収500万円の会社員が同じ生活水準を保つなら、少なくとも前述の計算例で年約68万円規模の保険料負担を売上でまかない、さらにパソコン・通信費・作業場所といった経費と税を上乗せした売上が必要になる、という順序で考えます。「500万円稼げば500万円の生活ができる」わけではない——これが独立前に知っておくべき一番の落とし穴です。

ただし、この式には自分では決められない変数がひとつあります。「自分の単価がいくらか」です。ここが分からないままだと、どれだけ丁寧に計算してもシミュレーションは絵に描いた餅になります。エンジニアの方であれば、会社員のまま無料面談で単価の相場観だけ確かめておくと、この式に自分の数字が入ります。

エージェントごとの単価・手数料の見方はフリーランスエンジニアのエージェント比較——単価・マージン・支払サイトで選ぶで整理しています。

青色申告65万円控除と経費で、数字はここまで変わる

フリーランス側の構造には、会社員にはない武器もあります。青色申告特別控除です。

複式簿記で記帳し、貸借対照表と損益計算書を添えて期限内に申告すると55万円、さらにe-Taxでの申告または電子帳簿保存を行うと65万円を所得から差し引けます。要件を満たさない場合の控除は最大10万円です(出典: 国税庁タックスアンサー No.2072)。同じ売上でも、帳簿の付け方ひとつで課税のもとになる所得が65万円変わる、ということです。

また、国保の算定基礎は所得ベースなので、経費を正しく計上して所得を圧縮することは、税金だけでなく保険料の所得割にも効いてきます。「複式簿記」と聞くと身構えるかもしれませんが、いまは会計ソフトが記帳から申告書類まで自動化してくれるため、65万円控除の要件は簿記の知識がなくても満たせます。独立準備の実務としては、最初に整えて損のない部分です。

なお、青色申告をするには開業届と青色申告承認申請書の提出が前提になります。手続きの順番は副業でも開業届は出すべきか——青色申告のメリットと失業保険がもらえなくなるケースにまとめました。

撤退ラインの決め方——「いくら割ったら会社員に戻るか」を先に決める

最後に、シミュレーションよりも大事な話をします。独立の失敗は「売上が足りないこと」ではなく、「引き返す基準を決めていなかったこと」から起きます。

だから、独立する前に撤退ラインを決めてください。決め方は3つの数字で足ります。①毎月必ず出ていく額(生活費+この記事で計算した保険料の月額)、②手をつけない預金の下限、③その状態を許容する期間。「月の売上が①を下回る月が、③の期間続いたら、②を守って会社員に戻る」——この一文を独立前に書いておくだけで、独立は「人生を賭けた片道切符」から「期限と条件つきの挑戦」に変わります。企業の副業容認率が64.3%まで来た今(出典: パーソル総合研究所・2025年)、会社員に戻る道も、会社員のまま試す道も、以前よりずっと現実的な選択肢です。

次の一手

「まだ辞める決心がつかない自分は覚悟が足りない」と感じる必要はありません。実額を確かめてから決めようとしているのは、慎重なのではなく、正しい順序で進んでいるということです。

今日の一歩は小さくて構いません。お住まいの自治体のサイトで国民健康保険料の試算を出し、国民年金の215,040円(2026年度・年額)と合わせて、自分の「独立したら増える額」をメモする。それだけで、この記事の表があなたの数字になります。辞めるかどうかは、今日決めなくていい。ただ「何が揃ったら辞めるか」の条件と、それをいつ決めるかだけ、今日決めておきましょう。

参考資料