親が元気なうちに実家の話をする——生前にできる空き家対策と切り出し方の手順
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帰省のたびに「この家、いつか話さないと」と思いながら、切り出せないまま帰ってくる——多くの方が同じところで立ち止まっています。ですが空き家の取得方法は「相続」が57.9%で最多、発生原因は所有者の「死亡」が58.3%(国土交通省・令和6年空き家所有者実態調査)。話さないまま相続を迎えた実家は、そのまま空き家になりやすいのが実態です。この記事では、実家の話を縁起でもない話ではなく「親を困らせないための段取り」として、生前にできる対策と切り出し方を整理します。
遺言・生前贈与・家族信託・任意後見は、いずれも親に判断能力があるうちにしか使えません。選択肢がいちばん多く残るのは「親が元気な今」です。
- 相続前に対策をしていた世帯は23.0%。最多は「被相続人との話し合い」16.7%(令和6年空き家所有者実態調査)
- 対策をしなかった実家は、そのまま空き家として所有され続ける割合が約1.5倍でした(同調査)
- 今日やることは「次に帰省したとき、何をひとつ聞くか」を決めることだけです
生前贈与や相続時精算課税など税制の使い分けは、家族構成や財産の内訳で答えが変わります。相続・生前対策に強い税理士を無料で探して比較できるサービスもあります。相続での税理士選びなら税理士ドットコム
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結論: 選択肢がいちばん多く残るのは「親が元気な今」
実家の対策は、親に判断能力があるうちなら「話し合う・遺言・贈与・信託・任意後見」のすべてが選べますが、失われた後はその多くが使えなくなります。令和6年空き家所有者実態調査(2025年8月29日公表)では、相続前に対策をしていた世帯は23.0%にとどまり、内容の最多は「被相続人との話し合い」16.7%でした。特別な制度以前に、「話しておくこと」自体が最も選ばれている対策なのです。
効果の差も同じ調査に表れています。相続前に対策をしなかった空き家は、「何もせずそのまま所有され続けている」割合が対策をした空き家の約1.5倍(45.1%対29.4%)でした。親が元気なうちの話し合いは、将来、親自身と家族が困らないための段取りです。すでに相続が発生している方は、先に相続直後にやるべきことを整理した記事をご覧ください。
なぜ生前が有利か——判断能力を失うと、家が動かせなくなる
理由は単純で、判断能力を失った後は、本人名義の家を原則動かせなくなるからです。民法3条の2は、意思表示の時に意思能力がなかった法律行為は無効と定めています。認知症の診断で直ちに無効になるのではなく行為ごとの個別判断ですが、判断能力を失った状態では実家の売買や贈与は原則できず、成年後見などの手続きが必要になります。成年後見人を付けても、居住用の建物や敷地の売却には家庭裁判所の許可が必要です(民法859条の3)。
最高裁判所の「成年後見関係事件の概況」(令和7年=2025年)では、後見開始等の原因は認知症が最多で約61.3%。申立ての動機は「預貯金等の管理・解約」が93.4%で最多、「不動産の処分」も36.3%を占めます。判断能力が落ちてから後見を申し立てる家庭が多いのが実態です。空き家の発生原因では「施設への入居」も11.3%あり(前掲調査)、親の住まいと介護は地続きです(介護・施設探しのページへ)。
生前にできる対策の一覧——遺言・生前贈与・家族信託・任意後見の入口
生前の対策は大きく4つ。いずれも親に判断能力があるうちだけ選べます。家族構成と財産で選択は変わるため、入口だけ整理します。
遺言
実家を誰に引き継ぐかを親自身が決めておく方法です。自筆証書遺言は、法務局の保管制度(手数料1件3,900円)を使えば家庭裁判所の検認が不要になります(保管制度を使わない場合は検認に収入印紙800円)。公正証書遺言も検認不要で、手数料は財産額に応じて変わります(2026年7月時点・日本公証人連合会)。引き継ぎ先を決めておくことは、実家が共有名義になって動かせなくなる事態の予防にもなります(詳しくはきょうだい共有名義の記事へ)。
生前贈与
親が元気なうちに実家や資金を移す方法です。暦年課税の贈与税は基礎控除が年110万円。要件を満たす親子間などでは特別控除2,500万円の相続時精算課税も選べ、2024年以後の贈与から年110万円の基礎控除が加わりました(国税庁)。ただし一度選ぶと暦年課税には戻れません。暦年課税の生前贈与加算も相続開始前3年以内から7年以内へ段階的に延長中で、どちらが有利かは個別事情で変わります。実行前に税理士または税務署に確認してください。
家族信託(民事信託)
財産を託す委託者(親)・管理する受託者(子など)・利益を受ける受益者(通常は親自身)の三者で組む契約です。親が元気なうちに実家を託しておくと、判断能力を失った後も受託者が契約の定めに従い実家の管理・売却を行える設計が可能とされます。専門家に依頼した場合の初期費用は総額50万〜100万円程度が目安(事業者公表値・公的な相場統計はありません)。設計は必ず専門家に相談してください。
家族信託を検討したい場合、設計の相談先には認知症による資産凍結から親を守る|家族信託のおやとこ
のような無料相談窓口もあります。契約を急ぐ場ではなく、自分の家族に向くかどうかを確かめる入口として使ってください。
任意後見
将来の後見人と支援内容を、親が元気なうちに公正証書で契約しておく公的制度です。判断能力が低下した後、家庭裁判所が任意後見監督人を選任した時から効力が生じます。公正証書の作成は基本手数料13,000円のほか収入印紙代などがかかります(2026年7月時点・日本公証人連合会)。
なお、全員に制度が必要なわけではありません。財産が実家と預貯金だけで相続人も一人なら、話し合いと遺言、情報の共有で足りる場合もあります。逆に、親がすでに判断能力を失っている場合は生前対策は使えず、成年後見を含めて司法書士・弁護士への相談が入口になります。
親への切り出し方——「家をどうするの」ではなく「困らないようにしておきたい」から
要点はひとつ、家の処分ではなく「親を困らせないための準備」を目的として話すことです。「この家、どうするの」という聞き方は、親には詰問に聞こえかねません。「困らないようにしておきたいから、教えてほしい」から入ると、同じ内容でも受け取られ方が変わります。制度選びより先に、まず話せていることに意味があります。
進め方は三つ。一度で決めようとせず、初回は権利証のありかなど事実確認だけにする。きょうだいがいる場合は、親に話す前に目的を共有しておく(一人で先に動くと誤解を生みます)。そして、お盆や年末年始など家族が自然に顔を合わせる機会を使うことです。
集めておく実家の情報リスト——登記・権利証・境界・ローン・保険・業者
最初の一歩は、親に聞かなくても踏み出せます。実家の登記事項証明書(登記簿謄本)は誰でも取得でき、名義や抵当権の有無を確認できます(窓口600円・オンライン請求/郵送受取520円。2026年4月1日改定後・法務局)。そのうえで、次を少しずつ集めます。
- 登記の名義: 実家が祖父母名義のままのケースもあります
- 権利証(登記済証・登記識別情報)の保管場所: 再発行はできません。紛失時も売却は可能ですが、事前通知制度か司法書士等の本人確認情報(数万円〜十数万円程度)が必要になるため、場所だけ確認を
- 境界の資料: 確定測量図があるかどうか
- 固定資産税の納税通知書: 評価額と課税明細で実家の概況がわかります
- 住宅ローンなどの残債: 抵当権の有無は登記事項証明書でも確認できます
- 火災保険の契約内容: 空き家になると用途変更を保険会社に通知する義務が生じ得ます
- 付き合いのある業者の連絡先: 工務店・修繕・庭木の手入れなど、親しか知らない情報です
集めた情報は1か所にまとめます。エンディングノートのような「実家の情報を1冊に集める道具」——たとえばコクヨ「もしもの時に役立つノート」(Amazon)——を親に渡し、書ける欄から埋めてもらう方法もあります。家の中の物の整理と一緒に進めたい場合は生前整理を5ステップで進める記事もどうぞ。
今日決めなくていい。「次に帰省したとき何をひとつ聞くか」だけ決める
この記事の対策を、今日ぜんぶ決める必要はありません。ただ、把握だけは早いほうが選択肢を守れます。相続登記は2024年4月1日から義務化され、取得を知った日から3年以内の登記を正当な理由なく怠ると10万円以下の過料の対象です(過去の相続分は2027年3月31日まで)。また、相続空き家の3,000万円特別控除には「1981年5月31日以前に建築」などの要件があり、建築年や住まい方の把握が将来の税制上の選択肢を左右します。まずは次の帰省で聞くことをひとつ——たとえば「権利証はどこにある?」——決めておきましょう。
よくある質問
親が認知症になると実家は売れなくなりますか?
判断能力を失った状態での売買契約は原則無効です(民法3条の2)。ただし診断で直ちに無効になるのではなく、意思能力は行為ごとの個別判断です。成年後見人を付けても、居住用不動産の売却には家庭裁判所の許可が必要です(民法859条の3)。個別の判断は司法書士・弁護士に確認してください。
家族信託とは何ですか?
委託者(親)・受託者(子など)・受益者(通常は親)の三者で組む契約です。親が判断能力を失った後も、受託者が契約の定めに従って実家の管理・売却を行える設計が可能とされます。初期費用は総額50万〜100万円程度が目安(事業者公表値)で、設計は専門家への相談が前提です。
実家の話は親にいつ切り出すのがよいですか?
決まった正解の時期を示す統計はありませんが、生前の対策はいずれも親に判断能力があるうちにしか選べないため、早いほど選択肢が多く残ります。お盆や年末年始など顔を合わせる機会に、権利証の場所などの事実確認ひとつに絞って切り出すのが現実的です。
次の一手
実家の話を切り出せずにきたことを、責める必要はありません。親の家とお金の話は、誰にとっても重いものです。今日、制度を選ぶ必要も、親を説得する必要もありません。やることは「次に帰省したとき、何をひとつ聞くか」を決めて手帳に書くことだけです。生前贈与や相続時精算課税をどう使うかは家族ごとに答えが変わります。相続・生前対策に強い税理士を無料で探し、複数の候補を比べてから相談する方法もあります。相続での税理士選びなら税理士ドットコム
参考資料
- 国土交通省 令和6年空き家所有者実態調査: https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/R6_akiya_syoyuusya_jittaityousa.html
- e-Gov法令検索 民法(3条の2・859条の3): https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089
- 最高裁判所事務総局家庭局「成年後見関係事件の概況—令和7年1月〜12月—」: https://www.courts.go.jp/assets/20260316koukengaikyou-r7.pdf
- 裁判所「遺言書の検認」: https://www.courts.go.jp/saiban/syurui/syurui_kazi/kazi_06_17/index.html
- 法務省 自筆証書遺言書保管制度: https://www.moj.go.jp/MINJI/minji03_00051.html
- 日本公証人連合会(公正証書遺言・任意後見契約の手数料): https://www.koshonin.gr.jp/notary/ow02
- 国税庁 タックスアンサーNo.4402・No.4103・No.4161: https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/zoyo/4402.htm
- 法務局 登記事項証明書のオンライン請求案内: https://houmukyoku.moj.go.jp/homu/static/online_syoumei_annai.html
- 東京法務局 相続登記の義務化: https://houmukyoku.moj.go.jp/tokyo/page000275.html
この記事は2026年7月時点で確認できた法令・制度・手数料に基づいています。税務の判断は税理士または税務署に、遺言・信託・後見の設計は司法書士・弁護士・公証役場に確認してください。


