個人事業主の退職金は共済でつくる——小規模企業共済とiDeCoを比較

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会社員時代は当たり前だった退職金も厚生年金も、独立した瞬間に自分で用意しない限りゼロになります。厚生年金保険は事業主に雇われている人のための制度であり、個人事業主自身は加入できません。何もしなければ、老後や廃業時に頼れる資金は国民年金だけの状態が続きます。この記事では、自分で退職金を作る代表的な2つの制度「小規模企業共済」と「iDeCo」を、掛金・税制優遇・受取り方・中途解約時の扱いで一次情報から比較します。

この記事の結論

小規模企業共済は引き出しやすさと貸付制度、iDeCoは運用益と掛金上限の大きさが強みで、掛金に余裕があれば両方の併用も検討できます。

  • 掛金上限は小規模企業共済が月1,000〜70,000円、iDeCo(自営業者等)が月5,000〜68,000円で、上限は別枠のため合算されません(中小機構)
  • 小規模企業共済には契約者向けの貸付制度がありますが、iDeCoにはありません
  • 今日やることは、自分の掛金にいくら余裕があるかを確認することだけです

まずは掛金控除を含めた手元のお金の流れを把握することが判断の土台になります。日々の記帳や控除額の計算には、無料の確定申告自動化ソフト マネーフォワード クラウド確定申告が役立ちます。

個人事業主に退職金がない、はどこまで本当か

結論から言うと、個人事業主が加入できる公的年金は国民年金だけで、会社員の退職金にあたる制度は存在しません。厚生年金保険は「事業主に雇われている被用者」のための年金制度のため、雇う側である個人事業主自身は原則加入できません。個人事業主・自営業者は20歳以上60歳未満であれば国民年金の「第1号被保険者」に区分され、加入できる公的年金は国民年金のみです。

従業員が常時5人以上いる個人事業所は業種によって厚生年金保険の適用事業所になることがありますが、これは従業員の加入に関する話であり、事業主本人が厚生年金に加入するわけではありません。つまり会社員なら当たり前についてくる退職金・企業年金・厚生年金の上乗せ部分を、個人事業主は自分で積み立てるしかないというのが実態です。会社員からフリーランスになると手取りがどう変わるかを確認済みの方なら、社会保険の負担が増える一方で退職金の積立が消えることにも気づいているはずです。その空白を埋める代表的な選択肢が、小規模企業共済とiDeCoです。

小規模企業共済とiDeCo、制度の違い早見表

両制度は掛金全額が所得控除になる共通点を持ちながら、引き出しやすさと運用の仕組みが異なります。まず数字で比較します。

比較項目 小規模企業共済 iDeCo(自営業者等)
掛金上限 月1,000〜70,000円(500円単位) 月5,000〜68,000円(1,000円単位。国民年金基金・付加保険料と合算枠)
税制優遇 掛金全額が所得控除(小規模企業共済等掛金控除) 掛金全額が所得控除(同上)
受取方法 一括・分割・一括と分割の併用の3種類 60〜75歳の間に一時金、有期年金(5〜20年)、またはその組み合わせ
中途解約・元本割れ 12か月未満の解約は掛け捨て。任意解約は納付月数240か月未満で元本割れ 原則60歳まで引き出し不可。運用商品に投資信託を選ぶと運用成績により元本割れリスクあり
貸付制度 あり(一般貸付・特別貸付。金利年0.9〜1.5%) なし
手数料 なし 加入時2,829円+毎月171円(国民年金基金連合会・事務委託先金融機関分)。金融機関ごとの運営管理手数料が上乗せされる場合あり

上限は別枠のため合算されず、両方を上限まで使うと合計月138,000円、年間165万6,000円を積み立てられます(中小機構)。ただし無理に上限まで積み立てる必要はありません。

小規模企業共済が向いている人

結論として、掛金を引き出しやすくしておきたい人・急な資金繰りに備えたい人には小規模企業共済が向いています。掛金は月1,000円まで減額でき、収入が不安定な時期でも無理なく続けられます。任意解約は納付月数240か月(20年)未満だと元本割れしますが、廃業・65歳以上での事由・死亡など正当な理由による共済金の受け取りはこのルールの対象外です。加入資格や共済金の種類は個人事業主の節税「小規模企業共済」の制度解説で整理しています。

もう一つの強みが契約者向けの貸付制度です。納付した掛金の範囲内で、一般貸付(金利年1.5%)や傷病災害時などの特別貸付(金利年0.9%)を利用できます。iDeCoにはこの貸付制度がないため、「積み立てながら、もしものときは借りられる」安心感を重視する人には小規模企業共済が合っています。運用商品を選ぶ手間がなく、手数料もかからない点もシンプルさを求める人には利点です。

iDeCoが向いている人

結論として、掛金の運用益を狙いたい人・掛金の上限をもっと使いたい人にはiDeCoが向いています。iDeCoは加入者自身が運用商品(元本確保型の定期預金・保険、または投資信託)を選ぶ制度です。投資信託を選んだ場合は運用成績によって受取総額が拠出額を下回る、つまり元本割れするリスクがあります。「掛金が全額所得控除になるから得」という側面だけでなく、リスクを理解した上で選ぶ制度です。

国民年金基金や付加保険料に加入していない個人事業主なら、iDeCoの上限は月68,000円まで使えます。小規模企業共済の上限(月70,000円)とは別枠のため、退職金づくりの土台を小規模企業共済で固めた上で、掛金に余裕がある場合の追加の選択肢としてiDeCoを検討するのが現実的です。原則60歳になるまで引き出せない点は、資金の流動性より長期の積立を優先できる人向けの制度だと言えます。

両方併用はできるか——上限額と現実的な配分の考え方

結論として、併用は可能で、上限は合算されません。小規模企業共済とiDeCoはどちらも国民年金第1号被保険者の個人事業主であれば加入資格を満たせるため、資金に余裕があれば両方に加入し、それぞれの掛金が所得控除の対象になります。

ただし「上限まで使えるから使うべき」ではありません。掛金は毎月の事業資金から支払うもので必要経費には算入できないため、赤字の年は控除の効果を十分に活かせない場合があります。現実的な配分としては、まず引き出しやすい小規模企業共済で最低限の積立を確保し、事業が安定して余裕が出てきた段階でiDeCoの掛金を増やす、という順番で検討する方法があります。すでに国民年金基金に加入している場合はiDeCoの上限がその分下がるため、加入状況を先に確認しましょう。確定申告を自分でやるか税理士に頼むかで迷っている場合は、掛金の配分もあわせて相談すると判断材料が増えます。

始め方——申し込み先と必要書類

結論として、小規模企業共済は中小機構の委託窓口、iDeCoは自分で選んだ金融機関(運営管理機関)から申し込みます。小規模企業共済は商工会議所や金融機関などの委託窓口で申し込みます。加入資格の詳細な要件や必要書類は小規模企業共済の制度解説記事で確認できます。

iDeCoは、取り扱いのある運営管理機関(金融機関)を1社選んで加入の申し出をします。取扱金融機関は全国に約160社あり、選ぶ際の着眼点は①運用したい商品のラインナップ②コールセンターやウェブでの手続きのしやすさ③口座管理にかかる運営管理手数料の3点です(iDeCo公式サイト)。手数料は金融機関により差があるため、複数を比較してから決めましょう。加入後の掛金の所得控除は確定申告で反映させる必要があります。年間の申告スケジュールは確定申告の手順とスケジュールの整理もあわせて確認しておくと迷いません。

よくある質問

小規模企業共済とiDeCoは同時に加入できますか?

はい、加入できます。国民年金第1号被保険者の個人事業主なら両方の加入資格を満たせます。掛金の上限は別枠のため合算されず、それぞれ上限まで積み立てれば合計で月138,000円まで所得控除の対象にできます。

iDeCoは元本割れしますか?

運用商品に投資信託を選んだ場合、運用成績によっては受取総額が拠出額を下回る、つまり元本割れするリスクがあります。定期預金や保険などの元本確保型商品を選べばリスクは抑えられますが、その分リターンも限定的になります。

掛金はあとから減らせますか?

どちらも見直しができます。小規模企業共済は月1回に限り増減額でき、最低1,000円まで減額可能です。iDeCoは年1回、掛金額を1,000円単位で変更できます。資金繰りに合わせて無理のない金額に調整できます。

次の一手

制度を調べるほど、どちらを選ぶべきか迷いが深くなるのは自然なことです。厚生年金も退職金もない不安を後回しにしてきたのは、日々の事業に追われていただけで、怠けていたからではありません。

今日決めるのは「どちらに加入するか」ではなく、「自分の掛金に月いくら余裕があるか」だけです。余裕が小さければ小規模企業共済の最低額1,000円から、余裕が大きくiDeCoの運用にも関心があれば併用も選択肢に入ります。加入自体は今日決めなくて構いません。「いつ確認するか」だけ、今日決めましょう。掛金を反映した確定申告の準備には、無料の確定申告自動化ソフト マネーフォワード クラウド確定申告も役立ちます。独立・副業に関するほかの悩みは、副業・独立の情報ハブでも整理しています。

参考資料

数字は2026年8月21日時点の中小機構・国税庁・iDeCo公式サイト(国民年金基金連合会)等の公開情報に基づきます。制度改正の可能性があるため、加入時は各公式サイトで最新情報をご確認ください。