相続した空き家を売るなら「取得費加算」か「3,000万円控除」か——3年10か月の期限と選び方

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相続の手続きがひと段落したころに「実家を売るなら、税金の特例があるらしい」と知って、調べ始めた方も多いと思います。ところが検索すると「取得費加算」と「3,000万円控除」という似た名前の特例が出てきて、どちらを使えばいいのか、期限はいつなのかで手が止まりがちです。気持ちの整理がつく前に、手続きと期限だけが押し寄せてくる。その重さは、あなたが怠けていたから生じたものではありません。

この二つは、条件を満たしても同じ家と敷地には重ねて使えません。そして期限を過ぎると、どちらも使えなくなる可能性があります。この記事では、最初の分岐、期限の数え方、仮の計算例による比べ方を順に整理します。

この記事の結論

相続税が課税された人は取得費加算、空き家の要件を満たす人は3,000万円控除が候補になり、同じ家と敷地には重ねて使えません。比べてから選びます。

  • 取得費加算は、相続税が課税された人だけが対象です。基礎控除以内で相続税が0円なら使えません
  • 期限は特例ごとに数え方が違い、死亡日によってどちらが先に切れるかが変わります
  • 今日やることは、相続税の申告書の控えを出して、自分の相続税額を確認することだけです

どちらが有利かは、相続税額や土地の評価額によって一人ひとり変わります。売却を決める前に、相続の税務に慣れた税理士へ個別の事情を確認する方法もあります。相続での税理士選びなら税理士ドットコム

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最初の分岐は「相続税が課税されたか」

取得費加算は、相続税が課税された人だけが使える特例です。国税庁のタックスアンサーNo.3267によると、適用要件は次の3つです。

  • 相続または遺贈で財産を取得した人であること
  • その財産を取得した人に、相続税が課税されていること
  • 相続開始日の翌日から、相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までに譲渡していること

相続税には基礎控除があり、その額は「3,000万円+600万円×法定相続人の数」です(国税庁 No.4152)。遺産がこの範囲に収まって相続税が0円だった方は、取得費加算の対象になりません。この場合は、3,000万円控除だけを検討することになります。

一方、3,000万円控除は相続税がかからなかった人でも使えます。つまり、相続税が課税された人だけが「二つを比べる」入口に立ちます。ここが選択の分かれ目です。

取得費加算は「払った相続税の一部を、取得費に足せる」仕組み

取得費加算は、支払った相続税のうち、売った財産に対応する部分を取得費に加えられる特例です。取得費が増えると譲渡所得が小さくなり、その分、所得税・住民税が減ります。

加算額は、国税庁No.3267では「相続税額に、売った財産の相続税評価額が全体に占める割合を掛ける」という按分で計算し、売った財産ごとに求めます。割合の分母の厳密な定義は、国税庁のページを確認するか、申告書と計算明細書で確かめてください。

加算額には上限があり、特例を使わない場合の譲渡益を超えるときは、その譲渡益相当額までです。

実家は古く、購入時の書類が残っていないことも多いでしょう。取得費が分からない場合は、売却額の5%を概算取得費にできます(国税庁 No.3258)。たとえば3,000万円で売れれば150万円です。古い実家は取得費が小さくなり、譲渡益が大きくなりやすいため、取得費加算が効く場面があります。

3,000万円控除の期限は、取得費加算とは数え方が違う

期限は「どちらが長いか」が死亡日で変わるため、自分の日付で数える必要があります。

取得費加算は、相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までです。申告期限は、死亡を知った日(通常は死亡日)の翌日から10か月以内です(国税庁 No.4205)。「3年10か月」は通称で、国税庁の条文表現は上の言い方です。

3,000万円控除は、相続の開始から3年を経過する日の属する年の12月31日までです。売却代金が1億円以下であることも要件で、令和9年(2027年)12月31日までの譲渡が対象です(国税庁 No.3306)。

次の二つは、数え方を示すための仮の日付例です。

仮の死亡日 取得費加算の期限の目安 3,000万円控除の期限 先に切れる方
2023年1月6日 申告期限は2023年11月6日。その翌日以後3年を経過する日で、2026年11月7日 2026年12月31日 取得費加算
2023年10月20日 申告期限は2024年8月20日。その翌日以後3年を経過する日で、2027年8月21日 2026年12月31日 3,000万円控除

上の日付は説明用の仮例で、数え方を示すものです。申告期限が土日祝日にあたる場合は翌日になるなど、実際の期限は個別に変わります。ご自身の期限は、税務署または税理士に確認してください。

併用はできない——根拠は3,000万円控除の要件

同じ家屋・敷地について、取得費加算と3,000万円控除は重ねて使えません。国税庁No.3306の要件(5)に、売った家屋や敷地について「相続財産を譲渡した場合の取得費の特例」などの他の特例を受けていないこと、とあるためです。国税庁のページに「併用不可」という言葉があるわけではなく、この要件を読んだ結果として、どちらか一方を選ぶことになります。

3,000万円控除には、家屋の要件もあります。昭和56年5月31日以前に建築された、区分所有でない家屋であることなどです。家屋を残して売るなら耐震基準を満たすこと、解体して敷地だけ売るなら取壊し等の条件があります。詳しくは相続空き家の3,000万円特別控除の適用条件とチェックリストで整理しています。

仮の計算例で比べる

ここからは、あくまで説明用の仮の計算例です。実在の数字ではありません。次の条件を置きます。

  • 相続税額(本人負担分)は600万円、課税価格の合計は1億円
  • 売る土地の相続税評価額は2,000万円、売却価格は3,000万円
  • 取得費は概算の5%で150万円、譲渡費用は100万円
  • 長期譲渡所得として、税率は約20%(所得税15%と復興特別所得税、住民税5%を合わせた自前の計算で20.315%)

取得費加算の額は、600万円×2,000万円÷1億円で120万円です。

項目 特例なし 取得費加算あり 3,000万円控除
取得費 150万円 270万円(150万円+120万円) 150万円
譲渡所得 2,750万円 2,630万円 2,750万円から最高3,000万円を控除し、0円
税額の概算 約559万円 約534万円 0円

この仮の例では、取得費加算で約24万円ほど税額が下がり、3,000万円控除が使えるならさらに有利でした。ただし、控除の要件を満たすことが前提です。要件を満たさない土地(元の居住用でない土地など)では、取得費加算を検討することになります。

税理士解説では、相続税が高額な場合は取得費加算が有利になり得るとされています。ただし按分計算のため、「相続税が何円を超えたらこちら」と線を引ける単純な基準はありません。目安にとどめ、比較計算をしてください。相続人が3人以上の場合は、3,000万円控除が取得した相続人ごとに2,000万円までになる点にも注意が必要です(令和6年1月1日以後の譲渡)。

上の数字は税理士の確認を経たものではなく、実際の税額や有利不利は、個別の事情で変わります。

この特例が「不要な人」と、先に決めておきたいこと

相続税が0円だった人、そして取得費加算も3,000万円控除も使えない物件を売る人には、この二択の比較自体が不要です。その場合は、売却価格と取得費の差額に対する税額をそのまま見込みます。

売るかどうか自体を迷っているなら、先に査定で価格を知ることが判断材料になります。売る決断は、家を見捨てることではありません。次に使う人へ渡すことです。首都圏の物件なら東京都・埼玉県の相続した実家を売る査定の手順、売り方の選択肢なら空き家の買取と仲介の違いが参考になります。売れる見込みが立たない土地は、相続土地国庫帰属制度の負担金と総額の計算も選択肢です。

登記が済んでいないと売却の手続きが進められません。相続登記の期限と簡易な手続きは相続登記の期限の数え方と相続人申告登記で確認できます。そのほかの空き家の悩みは、空き家・実家じまいのハブページにまとめています。

よくある質問

取得費加算は相続税がかからなかった場合も使えますか?

使えません。取得費加算は、財産を取得した人に相続税が課税されていることが要件です(国税庁 No.3267)。基礎控除以内で相続税が0円だった場合は対象外となり、空き家の要件を満たせば3,000万円控除を検討します。

取得費加算と3,000万円控除は両方使えますか?

同じ家屋・敷地では使えません。国税庁No.3306の要件(5)で、売った家屋や敷地について取得費の特例などの他の特例を受けていないことが求められているためです。有利なほうを選びます。

取得費加算の期限は「3年10か月」で合っていますか?

通称としては合っていますが、正確には相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までです。申告期限は死亡日の翌日から10か月以内なので、死亡日によって日付が変わります。ご自身の日付で数えてください。

次の一手

ここまで調べて、まだ決めきれていなくても大丈夫です。先送りしてきた自分を責める必要はありません。誰にとっても重い話です。ただ、期限のある話なので、いつ決めるかだけは今日決めてください。

小さな一歩は二つです。まず、相続税の申告書の控えから、自分の相続税額と売る土地の評価額を確認すること。次に、死亡日から二つの期限を数え、カレンダーに書き込むことです。

そのうえで、どちらの特例が有利かの比較は、個別の相続税額や評価額で結果が変わります。相談は問い合わせの時点で売却や申告の契約が決まるものではなく、事情を伝えて確認するところから始められます。相続での税理士選びなら税理士ドットコム

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参考資料